NUKADAKI GUIDE

ぬか炊きの栄養価

北九州市の公的調査で分析された、ぬか床とぬか炊きに含まれるビタミンB1・B6・マグネシウム・GABAを解説します。

ぬか炊きは、サバやイワシなどの魚を、ぬか床とともに炊き上げる小倉の郷土料理です。 味の印象としては「発酵の香り」「魚の旨み」「甘辛い煮付けとは違う深み」が語られますが、北九州市の調査報告書では、栄養成分の面からもぬか炊きが分析されています。 ここでは、報告書に掲載された公的成分調査のうち、味処矢野の熟成ぬか床とサバのぬか炊きに関する数値を中心に整理します。

分析対象は「魚本体+煮汁」

報告書では、北九州市内のぬか炊き専門店3店の熟成ぬか床と、サバを使ったぬか炊きが分析対象になっています。 分析は一般社団法人日本食品分析センターへ委託され、ぬか炊きについてはサバ本体と煮汁を分けて測定したうえで、記事中では「魚本体+煮汁」の合計値として扱います。 これは、ぬか炊きを食べるときに煮汁をどう扱うかが、成分の見方にも関わるためです。

ぬか炊きの煮汁には、ぬか床由来の香り、塩味、酸味、魚の脂や旨みが溶け込みます。ご飯に少しのせて食べる、定食の皿に残った煮汁を魚と一緒に味わうといった食べ方は、単なる好みだけでなく、報告書が「煮汁も含めれば」と述べる栄養面の評価ともつながります。

味処矢野のぬか床とぬか炊きの成分値

下表は、報告書に掲載された成分のうち、米ぬか、味処矢野の熟成ぬか床、味処矢野のぬか炊きの値を整理したものです。 単位はいずれもmg/100gです。ぬか炊きの値は、魚本体と煮汁の合計値です。

ビタミンB1

米ぬか
3.84
矢野(ぬか床)
0.86
矢野(ぬか炊き)
0.52
ぬか床からぬか炊きへの変化
約40%減

ビタミンB6

米ぬか
2.89
矢野(ぬか床)
1.11
矢野(ぬか炊き)
0.828
ぬか床からぬか炊きへの変化
約26%減

マグネシウム

米ぬか
824
矢野(ぬか床)
306
矢野(ぬか炊き)
167.6
ぬか床からぬか炊きへの変化
約47%減

遊離GABA

米ぬか
32
矢野(ぬか床)
170
矢野(ぬか炊き)
72
ぬか床からぬか炊きへの変化
約58%減

ビタミンB1・B6は、ぬか炊きでも確認されている

ビタミンB1について、報告書は、味処矢野のぬか炊きが0.52mg/100gであり、「高い値であった」と記しています。 熟成ぬか床の0.86mg/100gからは約40%減少していますが、報告書はその要因として、調理の加熱方法や加熱時間が考えられるとしています。 ここで大切なのは、ぬか床に含まれる成分が、加熱後のぬか炊きにも一定量確認されている点です。

ビタミンB6も同様に、熟成ぬか床では1.11mg/100g、ぬか炊きでは0.828mg/100gでした。 こちらも加熱後に減少していますが、減少率は約26%と整理されています。報告書では、ビタミンB1・B6のいずれについても、ぬか炊きは煮汁も含めれば良い供給源と考えられる、と述べられています。

マグネシウムとGABAは「煮汁まで含める」見方が重要

マグネシウムは、米ぬかで824mg/100g、味処矢野の熟成ぬか床で306mg/100g、ぬか炊きで167.6mg/100gでした。 ぬか床からぬか炊きへは約47%減少しています。ビタミン類と同じく、加熱や調理工程の影響を受けながらも、ぬか炊きとして食べる状態に成分が残っていることがわかります。

遊離GABAは、米ぬかで32mg/100g、味処矢野の熟成ぬか床で170mg/100g、ぬか炊きで72mg/100gでした。 報告書は、熟成ぬか床のGABA含量が米ぬかと比較して高い値を示した理由について、ぬか床に生息する微生物により増大したことが考えられる、と説明しています。 また、カボチャやトマトのGABA含量との比較では、味処矢野のぬか炊きのみ高い値であった、と記されています。

GABAについては、報告書内で機能性成分としての一般的な報告も紹介されています。ただし、これは食品成分に関する文献上の説明であり、当店のぬか炊きを食べることで特定の健康効果が得られる、という意味ではありません。 飲食店の料理としては、効果を断定するのではなく、小倉の食文化として受け継がれてきたぬか炊きに、こうした成分が確認されたという事実を丁寧に伝えることが重要だと考えています。

矢野式糠床と「伝統式」としての位置づけ

報告書では、ぬか炊きを大きく二つに整理しています。ぬか床のみを調味料とする「伝統式」と、砂糖、醤油、みりんなどの調味料を使用する「現代式」です。 味処矢野の矢野式糠床は、醤油・酒・味醂・白砂糖を一切加えない完全無添加の製法です。この分類に照らすと、矢野式は伝統式にあたる位置づけです。

ただし、成分値と製法の関係を単純に断定することはできません。報告書でも、ぬか床からぬか炊きへの成分減少について、調理の加熱方法や加熱時間などが要因として考えられると述べるに留めています。 味処矢野としても、数値を誇張するのではなく、ぬか床を調味料として使う小倉の食文化そのものの価値と、その中で矢野式が大切にしている製法を伝えていきます。

小倉でぬか炊きを食べるなら、煮汁まで少しずつ

初めてぬか炊きを食べる方には、魚の身だけでなく、皿に残った煮汁を少しご飯に合わせて味わうことをおすすめします。 ぬか床の香り、魚の脂、発酵由来の奥行きが重なり、通常の煮魚とは違う小倉らしい味が見えてきます。 朝は定食で、昼はランチで、夜は日本酒や一品料理と合わせて。ぬか炊きは、栄養成分の数字だけでなく、土地の記憶と食べ方が一緒になって受け継がれてきた料理です。

出典:北九州市「北九州市の郷土料理『ぬか炊き』の食文化価値の再発見事業 調査報告書」(令和7年3月、文化庁 令和6年度「食文化ストーリー」創出・発信モデル事業)